結局、国と東京都の事前調整の結果、美容業は「社会生活を維持するうえでの必要な施設」とされ、東京都の休業要請対象からは外された。報道によると、感染の拡がりを危惧する東京都は理美容を含む広範囲な業種を休業対象として調整していたが、社会の混乱や経済的なダメージを重く見た国は、段階的な処置を指向し、結果的に東京都は国の方針に従った。休業要請の対象外となったことで、美容業は都が準備する「休業協力金」の対象外にもなった。営業を続けても集客は見込めない、休業しても協力金はもらえない「生殺し」のような状態に陥った。そして、国と都の噛み合わないこのやりとりが、更なる分断を生んでいる。
まず、緊急事態宣言が発出されたことによって、世論はひとまず自粛モードが先行した。その流れを受けて多くの大型有名美容室は、緊急事態宣言の期限とされる5月6日までの休業を発表したが(WWD「大手ヘアサロンの多くが休業を発表 2020.4.8」)、10日の発表によって美容が休業対象から外れるまでの4日間、多くの美容室は営業を続行すべきか、休業すべきかの判断を迫られることとなった。
この4日間、美容に関するSNS等のコメントを読んでいると、営業の続行を決定した美容室やこのような状況下でも美容室を利用したいという人々に対して、否定的なコメントが多くみられた。美容室の利用は、不要不急の外出であることを否定の根拠としているコメントが多かったが、美容への感じ方は人それぞれであり、生活していく上で必要だと主張する人も多くいる。美やファッションに関しては、無頓着な方から関心の高い方まで様々な主張が存在しうるが、営業を続行したことによって、その美容室に対して不信感を募らせる方々が多くいるという事実は重たい。
一方、美容室で働くスタッフの間にも分断が生じた。すでに有名美容室などは緊急事態宣言発出前に休業を発表していたということもあり、多くの従業員は自分自身が勤務する美容室も休業することを想定していたようだ。こちらもSNSには、従業員の側から、続行を決定したサロンオーナーや来店するお客様に対して、否定的なコメントが相次いだ。だが、対面サービスである美容業を職業として選んだのは自分自身であるし、こんな時に来ないでくださいといった発言は、あまりに無自覚・無責任な発言であろうと個人的には感じる。感染が怖い中働くのは、医療従事者、金融機関の相談窓口、スーパーやコンビニでバイトする方々も同じはずだ。このような状況でも必要とされるのであれば、美容業に従事する者は職業への誇りを持って、接するべきではないであろうか。職業に対する覚悟が問われる時だが、国と都が違う見解を発したことで現場の不安を増長させることとなった―。