2019年3月からスタートした「marché de beauté」。美容室の店先に野菜の販売ブースを設けて、美容・美食・健康を提案していこうという試みであるが、間もなく一年を経過しようとしている。よく「なんで野菜売っているのですか?」と聞かれることも多く、前例がない訳ではないが、全国的に見ても非常に珍しい取り組みであると思われる。
発端は、2019年1月に地元福岡に帰省した際に、立ち寄った福岡県八女市の道の駅に着想を得たのが始まりであった。そこには、地元農家で採れた新鮮な野菜を始め、特産品である苺やお茶、加工品であるジュースやお酒、柚子胡椒。他にも、園芸用の植物などなかなか見ごたえのある内容で、かなり賑わいのある催しであった。道の駅は、全国の至る所にあり、それぞれ規模も大小からなり、取り扱っている商品の種類も地域によってバラバラではあるが、共通しているのは、その地域で採れた食材を中心に取り扱い、展開しているという点にある。
元来、美容室というのは多大な広告費用やSNSを使って遠方からお客様にお越しいただくものではなく、近隣にお住まいの方々に寄り添い、地域の方々にご利用いただくものであったが、人々のライフスタイルやテクノロジーの進化によって、そのような性格はだんだんと後退しつつある。特に、東京の原宿・表参道・南青山辺りのエリアは、今ではSNSを駆使し、全国と言わず全世界からお客様を呼び込むと言った動きが、若い世代を中心に活発となりつつあり、実際に業界誌が特集する若手売れっ子美容師といった記事に登場する人々の共通点は、SNSを最大限に活用しているという点である。
もちろん、その種の動き自体は否定されるものではないが、そのような時代だからこそ、軽視してならないのが地域に深く根差した美容室という視点であると、私は強く感じている。それは、どんなにテクノロジーが進化しても地域の健康を見守る、町医者の存在が地域に欠かせないのと同様に、美容室も地域に根差しているからこそ、その存在理由を最大限に発揮できると思われるからである。
髪の毛も白髪も自然に伸び、定期的なメンテナンスを必然的に求められるものである。現在、コロナウイルスの蔓延によって社会的な混乱が生じているが、地域に根差している業態というのは、社会的な混乱が生じた時にこそ、存在理由を発揮する。実際に、美容室は昔から不景気に強い業態であると言われているが、SNSで活性化している美容室であれば、前提条件は異なってくる。混乱の時代だからこそ、コミュニティと美容室の価値が問われている。
「marché de beauté」は、美容を通じて地域のニーズに応え、美と健康に役立ててもらうという想いが込められた取り組みである。このような時代だからこそ、この取り組みを深化させ、新たな一年をスタートさせていきたい。今こそ、美容室の真価が問われている。