2020年2月9日(現地時間)に開催された第92回アカデミー賞受賞式にて、なんと韓国映画である「パラサイト 半地下の家族」(以下、パラサイト)が、アジア映画として初めて作品賞に輝く快挙を成し遂げた。背景には、投票権者の国際化、多様化があるとのことで、これまで投票権の大半が白人の男性に集中していたことへの反省から、多様化を図り、有色人種や女性の投票権を増やしてきた取り組みが「パラサイト」の受賞へ繋がったとする分析と共に、純粋に韓国映画である「パラサイト」の出来が良かった、観ていて「おもしろい」と思う人が多かったというのが、映画専門家の見解だ(例えば、猿渡由紀『「パラサイト」がアカデミー賞を受賞できた理由』東洋経済ON LINE 2020.2.11)。
実際に、韓国の映画や美容の国際的な競争力は、日本のそれらよりも優れている。人口約1億2千万人の日本の市場は、国内だけでもそれなりの規模があり、輸出しなくとも魅力ある市場価値がある。逆に、人口約5千万人の韓国では映画で描かれていた深刻な格差問題も相俟って、国内市場だけでは十分な経済効果が見込めない。ゆえに、韓国は国家の産業戦略として映画や美容の国際競争力を高めるための投資に力を入れ、着実に結果を積み重ねていき、「パラサイト」のアカデミー賞受賞という、ひとつの到達点に達したと言っても過言ではない。
もうひとつ、複雑な心境で受け止めざるを得ない受賞と言えば、ヘアメイクアップアーティスト、カズ・ヒロ氏の「スキャンダル」におけるメークアップ&スタイリング賞の受賞である。カズ・ヒロ氏の同賞の受賞は、2年前の「ウィンストン・チャーチル」に続く2回目であるが、前回は日本人、辻一弘としての受賞が注目された。カズ・ヒロ氏のインタビュー記事によると、当時「日本を代表して」とか、「日本人として初の」と持て囃されたことに「心地よくない」と感じ、「もう日本国籍を切ってしまおう」と思い立ち、アメリカ人として生きていくことを決意したそうだ。氏、曰く「集団意識が強く」て、「古い考えにコントロールされて」いて、個人の考えが「威圧されている」日本社会では「精神疾患になってしまう」ほどの苦痛を伴うそうだ(同じく、猿渡由紀「カズ・ヒロ氏、またもやオスカー候補入り。国籍と名前を変えた心境を聞く」より)。
たしかに、日本は変化が少なく、様々な指標を比較してみても国際化、多様化しているとは言い難い。政治家も社長も世襲が続き、残念ながら非上場企業が多い日本の美容メーカーやディーラーにおいては、その流れは顕著である。ところが、日本市場は衰退期にあり、世襲でのらりくらりとやっていける状況ではないことは明らかである。
アメリカに長く住み、日本とアメリカの狭間で苦労を重ねてきたカズ・ヒロ氏の指摘を、私たちはどう受け止めるべきであろうか。日本は、試練の時を迎えていることを自覚すべき時期に来ている。