美容専門月刊誌『BOB』(髪書房 2020年2月号)によると、「寒色一辺倒だったヘアカラートレンドに、変化の兆し。」があり、「なかでも注目したいのが「ピンク」だ。」そうだ。ピンク推しの理由として、①情緒的なつながり②オリンピックの高揚感③ココロの充足感④「モテ」への希求⑤寒色系への反動⑥景気低迷を脱却、という6つのキーワードを掲げているが、牽強付会なこじつけであるというのが私の率直な印象である。本当に、ヘアカラーのピンクブームなるものの到来があるのであろうか。
まず、基本的な時代認識として、インターネットやSNSの拡大以後、テレビやファッション誌のような、これまで時代の流行を発信し続けていた大手メディアの影響力が後退し、インスタグラムやYouTubeに見られるような、通常一般人とされてきた人々による身近な感覚の発信が支持を集め、所謂「カリスマ」的な影響力を持つ一極集中型の巨大なブームは起き難い状況となっていると言うことである。かつての「聖子ちゃんヘア」であり、「キムタクヘア」であり、「ベッカムヘア」に誰もが憧れるという時代はとうに過ぎ去り、断片的に時代を切り取り、定義することが困難となっている。つまり、人々の指向はSNSの発達によって分散、多極化ないしは無極化し、5Gがインフラ整備される2020年以後は、さらにその流れが加速されると分析する方が、自然な流れと言えるだろう。残念ながら、美容専門誌が声高にブームの到来を唱導しようと試みようとも、そもそも活字媒体を購読する習慣自体が、美容師の中でも著しく減少し、SNSによる発信の方が支持を集めるという嘆かわしい状況である。残念ではあるが、美容師も美容学生も驚くほど美容業界誌を読んでいない。美容業界誌が特集するような、バレイヤージュやエアタッチ、ブリーチ後の高明度カラーもSNS上ではにぎやかであるが、どれも一部の人々による限定的なブームと言った印象で、現実はもっと複雑だ。
東京商工リサーチの調査によると、2019年の美容室倒産件数は2000年以降で過去最多となることが確実だそうだ。私には、どうも業界自体が蛸壺化し、広く多くの人々に支持されるような美容の魅力を発信できているようには思えない。困難な時代だからこそ、大胆に発想を転換し、新たな提案をしていくことが美容業界誌はもちろん、現場にも求められる本当の課題ではないだろうか。2020年が、その分水嶺となるかもしれない。